ケース3 資金繰りの手助け

ケース3.都内で鉄工所を営むアイアーン製作所(株)50代の経営者Oさんからの相談です。

「現在、売上の9割を某大手メーカーに依存している、いわばほぼ下請け状態です。業界全体の業績が下がっており、その大手メーカーの経営も苦しいようで最近受注件数が激減しており、資金繰りに困っています。他のクライアントを探す一方で、並行して別の対策を取らなければと思っています」
このような場合、生命保険にはどのような活用法があるのでしょうか?

即効性がある「解約返戻金」のパワー

会社の資金繰りが苦しい時に多額な保険料を払い続けるのは、大きな負担になります。そんな時に有効な手段が「解約返戻金」の活用です。
解約返戻金とは、積立型の保険を解約した時に、加入期間や支払保険料に基づいて保険会社から支払われるお金のことです。終身保険や養老保険、長期型の定期保険などのいわゆる積立型の保険には、毎月支払ってきた保険料の一部が解約返戻金として貯まっています。解約返戻金は、死亡時や高度障害を負う前でも使うことができるのです。まずは、今回の社長Oさんが加入していた保険を見てみましょう。
① 契約者
会社
② 被保険者
社長
③ 保険金額
5,000万円
④ 支払要件
死亡+高度障害+特約(三大疾病・生活保障)
⑤ 保険期間
終身
⑥ 受取人
会社
この会社では積立型の終身保険に加入していたため、解約返戻金を活用できる状態でした。とはいえ、保険を解約してしまうことは大きなリスクを伴います。
実は、保険を解約しなくても月々の支払いを楽にする方法がいくつかあるのです! 具体的に見ていきましょう。

1.払済(はらいずみ)保険
契約中の保険を解約する事ことなく、保険期間もそのままで支払いを停止する契約変更のことを「払済」といいます。保険期間の途中で保険料の支払いを停止するため、以後の保険金額は当初の保険金額より少なくなりますが、保険料は支払わず、保険も続けることが可能となります。保険金額はその時の解約返戻金をもとに算出されます。

加入中の保険を払済保険に切り替えることで、保険を解約せず、保障は一部継続しながら保険料をそれ以上支払わずに済むというメリットが受けられます。さらに、既に積み立っている解約返戻金の運用も進んでいきますので、今まで支払った保険料も無駄にならずに置いておくことができます。(解約返戻金は一度は減りますが、再び上昇することになります。)
なお、払済保険に変更できるのは主契約だけで、特約部分がある場合契約変更をした時点ではすべて消滅してしまいますので注意が必要です。
ただ、資金繰りの目処が付いたからといって、以前の契約に戻すことはできません。そのため、慎重に検討する必要があります。また、新しい保険に入り直す場合は、手続きの際に再び健康告知が必要になります。健康状態によっては加入できない場合もあります。
あまり知られていませんが唯一、「復旧」という方法で元の契約に戻すことが可能です。各保険会社によって条件は変わりますが、一定の期間内であれば復旧部分の不足額の支払いや再度の健康告知などをクリアすることで元に戻すことができます。

2.延長保険
延長保険とは、現在加入している保険料の支払いを停止し、その際の解約返戻金をもとに、当初の保険金額と同額の定期保険に入り直す方法です。以後の保険料の支払いが停止するところは払済保険と同じですが、保険金額を下げたくないという方におすすめです。
当初の保険よりも保険期間は短くなり、その間の保険料は解約返戻金から支払う仕組みになります。そのため死亡保険金は同額を保つことができますが、解約返戻金は減っていくことになります。何年延長できるかの期間は、延長保険への変更時点の解約返戻金の額によって決まります。
注意したい点としては、定期保険にしか変更できないため解約返戻金は目減りする上、特約も消滅してしまうという点です。
延長保険も払済保険と同様に「復旧」が使えます。会社の立場からすると、元の保険に戻すことができるのはとてもありがたいことです。
しかし、払済保険と延長保険は保険料の支払い停止には役立ちますが急な資金需要にはあまり有効なものではありません。
次は、解約返戻金を手にしつつ、保障内容も維持することができる手段をご紹介しましょう。

1.減額
文字通り保険金額を減らすことができます。その分保険料も減らすことができます。減額した部分については一部解約という扱いになるので、その分の解約返戻金を受け取ることができます。
ただし、一部とはいえ途中解約になりますので、解約返戻金が往々にして既払込保険料を下回ることになりますので、注意が必要です。
なお、減額に対しても「復旧」は使うことが可能です。

2.契約者貸付
保険契約者は、解約返戻金を一定範囲内(通常7~9割)で、保険会社から低金利(年利約3~4%)で貸し付けることができます。このことを契約者貸付といいます。この制度を利用すれば、保険を一切解約せずに解約返戻金を使うことができます。
しかも、この貸付制度は自分が支払ってきた保険料の中から貸し付けを行いますので、複雑な審査の必要がありません。申し込めばほとんどの場合で、なんと即日貸付ができるのです。(今はWEBで手続きすれば最短で翌営業日という保険会社もあります)
その上、契約者貸付には利息は付きますが返済期限も義務もありません。契約している保険の有効期間内であればいつでも返済できますし、万が一返済できなくても解約した際には解約返戻金から相殺、保険金が支払われる際には保険金から相殺されるので、返済を督促されることもないのです。

今回のOさんのケースでは、既に資金繰りに苦戦されているということでしたので、この契約者貸付制度を利用してもらうことで当面を乗り切ってもらうことになりました。

 

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