ケース1 社長の万が一

ここまで、中小企業向けの生命保険には単純な「保障」の一面だけではなく、さまざまな活用術があることをご紹介してきました。ここからは、具体的な悩みをお持ちの経営者の方に実際に登場していただきます。それぞれが抱える問題について生命保険でどのようなアプローチができるのか、具体的に見ていきましょう。

ケース1.「自分の身に万が一のことが起きた時の準備が手付かずでとても心配です。後継者はいるのだが、まだまだ未熟者で……」50代・運送会社経営者の場合

最初の相談者は、運送業界で長年中小企業を経営されているハコビマッセ運輸(株)の50代の社長 Mさんです。

「今までバリバリ現役で働いてきましたが、徐々に体力の衰えを感じるようになってきました。20代の長男に事業を承継することもそろそろ考えなくてはと思いつつ、社会人経験の浅い長男はまだまだ実力も経験も不足しています。最近、会社の財務状況もいいとは言えません。そんな中、突然自分の身に何かが起きてしまったら会社はどうなってしまうんだろうと毎日不安です。銀行からの借入金もあります。取引先とのお付き合いがどうなってしまうのかも心配だし、何より従業員や家族に大変苦労をかけてしまうことは明らかです。どうにか備えをと思うのですが……。」

このケースでは、生命保険はどのような助けになるでしょうか?

この相談ケースのような中小企業の経営者の方は、会社における実務割合が多い傾向にあります。社外との取引や営業をやりながら、従業員の教育指導も行う。さらに総務・経理・人事まで関与する方もいます。このように社長一人が業務を負いすぎていると、社長の身に何かあった場合に会社も一気に危機に陥る危険性があります。

 後継者の準備不足の状態で社長に万が一のことが起きた場合

社長の業務比重が多い会社の場合、社長の身に何かが起きた際には、すぐに資金繰りが厳しくなることが予想されます。従業員の給料、会社の賃貸料、取引先に支払うべき買掛金、銀行への借入金の返済など、一気に全てが苦しくなる可能性があるのです。特に社長が亡くなったという情報が銀行に届いた場合、銀行はすぐに借入金の回収にやってきます。最悪の場合、資産が差し押さえられてしまう可能性もあります。(この会社の場合直近の財務状況が悪いという不安要素が・・・)
もちろん、会社にこれらの急な事態を乗り切れるだけの潤沢なキャッシュがあれば全く問題はありません。しかし、ほとんどの場合は資金繰りに頭を抱えることになるのではないでしょうか。
万が一のケースに備え、経営を立て直すのに必要だと思われるだけの運転資金は最低でも確保しておきたいものです。世間一般では1年分の運転資金を確保しましょうといわれることが多いですが、事業内容や会社の状況により様々です。一般的な数字だけで判断するのはやめましょう。
果たして、このような場面で生命保険はどのように活用できるでしょうか?

 まず確認すべき生命保険の6つのこと

まずは、現在ご自身、あるいは会社加入している保険内容を確認してみましょう。確認すべきことは6つあります。
①契約者 = 誰が保険料を負担しているか。
②被保険者= 誰に保険がかかっているか。
③保険金額= 万が一にいくらお金が出るか。
④支払要件= どのような状態でお金が出るか。
⑤保険期間= いつまで保険の効果があるか。
⑥受取人 = 保険金を受け取るのは誰か。

このMさんは、ご自身が先代から事業を引き継いだ際に、死亡時・高度障害を負った際に5,000万円が支払われるタイプの定期保険に加入していました。
満期は65才です。
①契約者
会社
②被保険者
社長本人
③ 保険金額
5,000万円
④ 支払要件
死亡+高度障害
⑤ 保険期間
65歳
⑥ 受取人
会社

ここで最も重要なのは受取人の確認です。「そんなことは当たり前だ」と思われた方もいるかもしれませんが、被保険者の身に何かが起きた際に、意外とここがあやふやになっているケースが多いのです。保険金・給付金は、請求をしないと支払われることはありません。不測の事態に陥った時に「父は確か何か保険に入っていたはず……?」程度では、保険金を受け取ることすらできない可能性もあるのです。
受取人が妻なのか、長男なのか、会社なのか。改めてここをクリアにすると同時に、不測の事態に後継者はどこの保険会社の誰に連絡をすればよいのか、保険の内容と合わせてしっかりと確認しておきましょう。受取人に営業担当者を紹介しておくと安心です。
Mさんの場合は、受取人は自身の会社となっていました。この場合、死亡時の5,000万円は会社に入ります。つまり、長男には一切保険金が入ってこないことになります。
さらに気を付けなければいけないのは銀行からの借入金です。受取人が会社になっている場合、保険金の5,000万円は、借入金の回収にやって来た銀行にそのまま差し押さえられてしまう可能性もあるのです。その他の運転資金もあって、もし返済が滞り、信用保証協会の代位弁済という話にまでなってくると大変ですので気を付けましょう。

生命保険でできる対処法

このケースでは、非常に簡単な手続きで財産を守ることができます。契約内容を変更し、生命保険の受取人を会社から長男にする、これだけです。
ポイントは、受取人を妻ではなく長男にすることです。相続税の観点から見ると、配偶者に財産を相続すれば1億6,000万円までが非課税となりますので、生命保険の受取人も配偶者である妻にしておく方が有利に思えます。
しかし、この会社には銀行からの借入金が残っています。中小企業の場合、銀行の借り入れには配偶者が連帯保証人になることがく、このMさんの場合も妻が連帯保証人になっていました。ここで保険金を妻が受け取ってしまうと、そのまま差し押さえられてしまう可能性があるのです。
受取人を長男に変更しておけば、急に社長が死亡してしまった際には5,000万円の保険金が長男に入り、財産を守ることができます。さらに、当面の運転資金としてその5,000万円を活用し、経営を立て直す余裕が生まれるのです。なお税務上、受取人を会社以外にすることで毎月・毎年の保険料が給与扱いとなる場合もありますので担当の税理士と相談することをおすすめしています。
(我々プラスは税理士との連携もさせていただいております)

今回のケースでは保険金額は5,000万円のまま変更はしませんでしたが、売り上げや借入金を考慮し、保険金額が非常時の運転資金として足りるかどうかを考えることも重要です。運転資金が確保されていれば、急な借入金の返済もなく立て直しは計れるはずです。

<変更後の保険>
① 契約者
会社
② 被保険者
社長本人
③ 保険金額
5,000万円
④ 支払要件
死亡+高度障害
⑤ 保険期間
65歳
受取人
長男

結果として受取人を会社から長男(個人)に変更したことで万が一に備えてお金の使い道を選ぶことができます。

 

>>働けなくなった場合